大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成9年(ネ)1657号 判決 1997年11月18日

呼称

控訴人

氏名又は名称

株式会社住友ハウジング

位所又は居所

京都府京都市右京区西院平町二〇番地

代理人弁護士

松本俊正

代理人弁護士

松本裕子

呼称

被控訴人

氏名又は名称

住友不動産株式会社

住所又は居所

東京都新宿区西新宿二丁目四番一号

呼称

被控訴人

氏名又は名称

住友不動産販売株式会社

住所又は居所

東京都中央区京橋一丁目一〇番二号

代理人弁護士

山分榮

代理人弁護士

島田耕一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

〔以下、被控訴人住友不動産株式会社を「被控訴人住友不動産」、被控訴人住友不動産販売株式会社を「被控訴人住友不動産販売」という。〕

一  当事者の申立て

1  控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人ら

主文同旨

二  事案の概要

次のとおり訂正、削除し、当審における控訴人の主張を付加するほかは原判決の「事実及び理由」欄のうち「第二 事案の概要」に示されているとおりであるから、これを引用する。

【原判決の訂正等】

1  原判決九頁末行の「甲一一、」を削除する。

2  原判決一〇頁一行目の「検甲二四の2」を「検甲四の2」と訂正する。

3  原判決一一頁一一行目から一二行目の「同被告の代表取締役木村ひさ子は、住友開発の代表取締役梅野の妻である。」を削除する。

4  原判決一二頁九行目の「同被告代表者」を「梅野の妻」と改める。

【当審における控訴人の主張】

1  控訴人の商号(「株式会社住友ハウジング」)は、被控訴人らの商号(「住友不動産株式会社」、「住友不動産販売株式会社」)と類似していないし、営業主体を混同させるおそれもない。すなわち、

(一) 被控訴人らの商号中には「不動産」という文字が含まれているところ、「不動産」とは民法上は土地及びその定着物をいうと定められ(民法八六条一項)、動産に相対する観念であり、その主要なものは土地と建物である。建物については、その使用目的や規模等の制限はない。従って「不動産」とは、専ら人が使用するもの、居住用のものに限るといった制限などなく、極めて広範囲のものを含む観念である。これに対し、「ハウジング」は「ハウス」と同様、専ら人の住まい、住宅を指す名詞である(三省堂国語辞典第三版)。したがって、「ハウジング」と「不動産」、「不動産販売」とが観念において類似しているとし、控訴人と被控訴人らの商号が全体として明らかに類似しているとすることは誤りである。

さらに、被控訴人らの商業登記の目的として、不動産の取得、処分及び賃貸借、不動産の管理、利用及び開発のほか、土地造成、土木工事、山林開発ほか不動産に関連する種々の事業が掲げられている(甲一、二)のに対し、控訴人のそれは「土木建築の請負、土地建物の設計、測量及び分譲、不動産の売買、仲介、賃貸、管理」(甲四)であり、その上、住まいの増改築を手がけることから始まり現在では建売住宅の販売を主な業務内容としている控訴人の営業状況の実情、控訴人の商号の由来からみても、「不動産」と「ハウジング」という名称が明らかに類似しているとは言い難い。

(二) 被控訴人住友不動産は資本金約八六八億円、同住友不動産販売は約一二億円、日本全国一円をシェアとする巨大企業である。そして、被控訴人住友不動産はビルの開発・賃貸、マンション・戸建住宅の開発・分譲等を、同住友不動産販売は同住友不動産が開発した戸建住宅等の販売等を主な業務内容としている。これに対し、控訴人は資本金二〇〇〇万円の京都府下を主なシェアとする地元密着企業に過ぎない。控訴人は、昭和五〇年ごろ個人経営から出発し、同五一年一一月に法人化され、一般庶民へのマイホームの提供や増改築を主たる業務として、独自に顧客を開拓し、京都市から同府下一円にまで実績を築き上げてきた。

被控訴人住友不動産は京都の中心部四条河原町に現住友ビルを昭和五一年に竣工させているが、京都市内外に営業所等を設けて営業活動を本格的に始めたのは昭和六〇年代に入ってからのことであり、京都府下での営業活動は控訴人よりずっと後れてのものである。

このように、控訴人の営業活動、施設と被控訴人らのそれらとは規模、顧客の層、営業実績等においてその内容を異にしており、両者に誤認・混同を生じるようなおそれはない。控訴人の創業以来今日まで、両者の混同によるトラブル等が現実に発生していないことがこのことを如実に示している。

2  控訴人は創業以来今日まで主に京都府下において営業実績を築き上げてきた。その間、被控訴人らとの混同によるトラブルの発生等はなく、このことは昭和六一年の被控人らの通知の前後を通じて、二〇年間、全く変わっていない。ところが、被控訴人らの商号の一部と同じ「住友」の二文字があるというだけで、被控訴人らが、突如として、控訴人の経営の根幹を揺るがすような莫大な費用を要する商号変更を余儀なくさせることは権利の濫用である。

三  当裁判所の判断

当裁判所も、被控訴人らの本訴請求は理由があるからこれを認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり原判決を訂正、削除し、当番における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄のうち「第三 当裁判所の判断」に示されているとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の訂正等

(一)  原判決二四頁八行目の「甲一一~一三、」を「甲一三」と訂正する。

(二)  原判決二五頁一二行目末尾の「の」を削除する。

(三)  原判決二六頁一一行目の「社」」の次に「の要部はいずれも「住友」という文字部分と解されるところ、これら」を加える。

(四)  原判決二八頁六行目の「顧客をして、」の次に「被控訴人ら若しくは住友グループとの間に資本的結び付きが存在するなど取引上何らかの関係があると誤認させる状況が生じ、」を加える。

2  当審における控訴人の主張について

(一)  被控訴人らの商号の要部は「住友」という文字部分と解される上、一般需要者は不動産取引を行うに当たって控訴人が主張するところの「不動産」と「ハウジング」の意味の違いを重視しないと考えられること、住友グループに属する被控訴人ら企業がその商号に冠し、あるいはサービスマークとして使用してきた標章である「住友」は控訴人の設立前既に全国的に周知され、京都市及び同府下においても周知されていたものであること、前記甲一三及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人住友不動産は、その設立の昭和二四年一二月から大阪に出張所を置き(昭和三九年四月支店に昇格、昭和四八年一月大阪支社に昇格)、広く関西一円に営業活動を行い、控訴人が設立された昭和五一年一一月より前の同年一〇月には既に京都市内に京都住友ビルを完成させていることが認められ、その京都における営業活動も控訴人に遅れているとはいい難いこと、甲一の一及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人住友不動産も住友グループの一組織として控訴人設立時より前の昭和五〇年三月一日には既に設立されて営業活動を行っていたものと認められること、他方、不正競争防止法二条一項一号にいう「混同」は表示の主体である他人との間に経済的又は組織的に何らかの関連があると誤認させることを含むと解するのが相当であること、以上の点に鑑みると、控訴人の商号は被控訴人らの商号と類似しており、これにより一般需用者が控訴人を被控訴人らと混同し、あるいは被控訴人らとの間に経済的又は組織的に何らかの関連があると誤認するおそれがあるものといわざるを得ず、この点につき、控訴人の商号は被控訴人らの商号と類似していないとか、営業主体を混同させるおそれもない旨の控訴人の主張は採用することができない。

(二)  被控訴人らの差止請求が権利の濫用に当たるとは認め難いことについては、原判決三三頁九行目冒頭から三四頁三行目末尾までに示されているとおりであり、当審における控訴人の主張を斟酌してみても右判断は動かない。

四  よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 小原卓雄 裁判官 ▲高▼山浩平)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例